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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1823号 判決 1951年2月05日

控訴人 被告人 広沢義一 外一五名

弁護人 塚本義明

検察官 片桐孝之助関与

主文

被告人広沢義一、同小野木京一、同左高順一、同川崎静栄、同深尾義市、同小林喜太郎、同小林喜三郎、同石田ゆき、同小林銀一、同小川貫一、同足立久市、同長繩光雄、同小川代蔵、同長繩薫及び左高清の各控訴を棄却する。

原判決中被告人小川半七に関する部分を破棄する。

右破棄に係る被告人小川半七に対する事件を岐阜簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴趣意については弁護人塚本義明提出の控訴趣意書の記載を引用する。検察官は本件各控訴は理由のないものとしてその棄却を求めた。

控訴趣意第一点の一について

原審第一回公判調書に被告人等が出頭した旨の記載のないことは所論の通りであるが、公判調書の記載事項を規定した刑事訴訟規則第四十四条によるも、被告人の出頭しなかつたことは、その記載を命じているが出頭したことはその記載を命じていないのであるから、公判調書に被告人等の出頭したことを記載してないことを以て違法であるとする訳にはゆかない。

同上第一点の二について。

原審第一回公判調書によれば、被告人広沢義一等の弁護人塚本義明の事件に対する陳述が記載されていないことも所論の通りであり、刑事訴訟法第二百九十一条によれば、検察官の起訴状朗読後被告人及び弁護人に対し被告事件について陳述する機会を与えねばならないと規定しているのであるが、その規定自体によつて明かなように被告人及び弁護人の事件についての陳述はこれを強制すべきものでなくその機会を与うれば足りるところ、同公判調書によれば、検察官の起訴状の朗読が終つた後原審裁判官は、被告人等に対し刑事訴訟法第二百九十一条第二項及び刑事訴訟規則第百九十七条第一項の各事項を告げた上、被告人等及び弁護人に対し公訴事実につき何か陳述することがあるか否かを問い、その陳述の機会を与えたことが明記されていて、その調書の記載の正確性について異議のなかつた本件としてはその記載の事実はこれを争い得ないものというべく、従つて同弁護人はその与えられた機会を利用しなかつたというに帰着し、原審の措置には何等違法な点は存しない。

同上第一点の三について。

本件公訴事実は被告人足立久市、同長縄光雄、同小川代蔵、同長縄薫及び同左高清については、足立正二と玄小麦乃至玄大麦を麩と交換した事実及びその玄小麦乃至玄大麦を同人方迄輸送した事実、又その余の各被告人については足立仙三と玄小麦を麩と交換した事実及びその玄小麦を同人方迄輸送した事実であるが、原審第一回公判調書を通読すれば、論旨指摘の足立仙三に対する証拠足立正二に対する証拠というのはその表示が不正確であるという譏は免れ得ないが、各被告人と足立仙三及び足立正二との取引乃至同人等方迄の玄小麦乃至玄大麦の輸送の事実関係に対する証拠の趣旨であることを諒解し得られぬことはないのであつてこれを被告人に対する証拠として提出された趣旨の記載でないとする論旨はその局部的記載に拘泥した嫌いがあり採用し難い。

同上第一点の四について

刑事訴訟法第三百十三条は裁判所は適当と認めるときは、当事者の請求又は職権によつて事件の併合、分離をなし得べきことを規定しているが、その決定を記録上明かならしむべきことを命じていないのであり、事実上分離併合がなされている以上その決定自体が明記されていないからといつて分離併合がなされていないとするのは失当な見解であり、原審の処置を以つて右法条に違反するものとはなし得ない。

然しながら職権を以て調査するに

原審第一回公判調書によれば被告人等の出頭乃至不出頭に関する記載の存しないことは既に説示した通りであるが、被告人小川半七(原審相被告人足立子一も同一の関係)については人定質問に対する陳述の記載部分が抹消されているのみならず、同被告人が第一回公判期日に出頭した形跡が認められないこと及び同上第二回公判調書においては同被告人についてのみ人定質問と同被告人の事件に対する陳述の記載が存することによつて、同被告人は第二回の公判期日に出頭したが、第一回公判期日に出頭せず、従つて、第一回公判期日において同被告人の事件は他の被告人の事件と分離され、第二回公判期日において再び併合されたことが認められる。然るところ検察官の起訴状の朗読並びに冒頭陳述は、第一回公判期日においてなされた丈であるから、同被告人に関しては起訴状の朗読並びに冒頭陳述なくして審理判決がなされた違法があり、右の違法は同被告人に関する限り、判決に影響を及ぼすべきものであり、原判決中同被告人に関する部分はその余の点を判断する迄もなく刑事訴訟法第三百七十九条第三百九十七条によつて破棄を免れず、且つ原判決に掲記してある証拠(証人足立仙三の証言とあるは証人足立正二と記載すべきを誤つたものと思われる)中同被告人の供述以外の証拠は何れも第一回公判期日において取調がなされたものであり、従つて同被告人に関しては取調のなされていないものであつて同被告人に関する審理は極めて不十分なものといわなければならない。

同上第二点について

本件各被告人(但し被告人小川半七を除く以下同じ)の交換行為は違法性を欠如するもののようにいうが、論旨指摘の事情を以ては正当の理由があるものとなし難く、その他その違法性を阻却する事情も認められない。而して玄小麦乃至大麦を麩と交換した行為とそれを売却した行為とは本件においてはその情状に著しい差異があるとも考えられないのみならず、各被告人の罪責はその各被告人について判定せらるべく、他の被告人に対する処分の如何が当然その処分に影響するものとはなし得ない。而して本件犯行の態様その他諸般の事情を斟酌しても各被告人に対する原審の罰金刑は必ずしも失当なものともいえず、又その罰金刑に対して特に執行猶予を附さねばならぬと認められる事情も存しない。

以上説明のように、原判決中被告人小川半七に関する部分は破棄さるべく、且つ同被告人に対する審理は不十分であつて、直に当審において判決するに適せぬから、刑事訴訟法第四百条本文に則つて同被告人の事件は原審岐阜簡易裁判所へ差し戻すべく、又その余の各被告人に関してはその控訴は何れも理由なく、且つその他原判決を破棄せねばならぬ程の瑕疵もないから、同法第三百九十六条によつて夫々これを棄却すべきものとして主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 茶谷勇吉 裁判官 小沢三朗)

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